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デザインカテゴリー [ヨットの話題]

皆さんがヨットを購入させる時は、どんな事を基準に艇種を選ばれますか?
基準はいろいろある(外観デザイン、帆走性能、居住性、コストや安全性)でしょうが、しばしばそれらの基準は互いに相反するものである事があります。たとえば、ハイエンドのレーサー艇などは帆走性能を重視し軽量化をはかり安全マージンを低くとらざるを得ないなど。
そんな中でどんな基準で艇を選ばれるかは、オーナーがそのヨットでどのような事がしたいか(目的)によって違ってくるでしょう。週末、家族でセーリングを楽しみ、年に数回は泊まりがけでクルージングにいきたい。クラブレースとレース後のマリーナでみんなとわいわいお酒を楽しみたい。シングルハンドで日本一周、はては大海原をこえて冒険をしてみたい。このように目的はいろいろありますが、その目的を満たすための数ある基準の中でも外観や居住性、コストなどはオーナー自身の目でみて判断して頂けますが、その艇の安全性とくにスタビリティー(復元力)については、なかなかオーナーご自身で判断できかねるのではないでしょうか?

そんな中で目にされた方もおられるかと思いますが、ヨーロッパで流通するヨットにはデザインカテゴリーA~Dという表記がされています。これは欧州議会が統括し発効したEuropean Directive 94/25/ECの中で定められる基準に従い船舶(全長2.5m~24m)をその用途に応じて分類(A~D)しています。しかし、この規範は復元力を含む耐航性能を評価する明確な基準は記されていません。その基準となるのがセーリングヨット(全長6m以上)の場合、ISO(国際標準化機構)が定めるISO12217-2 Small craft – Stability and buoyancy assessment and categorization(小型船舶—復元力と浮力評価と分類)です。
この中では、復元力を含む耐航性の評価の方法が記されており、カテゴリー別にクリアすべき数値が明確に記されています。その中でも本日は、日本の小型船舶検査機構が定める小型帆船特殊基準にもありますAngle of varnishing stability(復元力消失角:船体が正の復元力をもつ限度角。これを超えると船体は上下裏返った状態に安定しようとする力が働く。つまり、この角度が小さいと転覆しやすく、また一度完全に転覆してしまった時に元の状態に復元する可能性が低くなる。)について、両者がどのように定めているのか紹介致します。
まずはISOの方ですが、カテゴリーAとBについては、復元力消失角と共に最低の重量排水量も決められていて以下のようになっております。


カテゴリーAとBそれぞれの最小要求排水量しかない船、つまり3トンと1.5トンの船では復元力消失角はそれぞれ124度と122.5度となり、排水量が大きくなるにしたがって要求される復元力消失角は小さくなります。それらはそれぞれ100度と95度以上でなければなりません。カテゴリーAでは15トン以上、Bでは6トン以上の船がこれにあたります。
一方小型船舶検査機構が定める小型帆船特殊基準[Ⅱ] 13.復元力の項目では沿海区域以上(つまり遠洋、近海、沿海区域)は90度、平水区域及び小型帆船沿岸区域等は80度以上の復元力消失角が要求されています。
以上二つの基準を比べますと、ISOで定められたカテゴリーCのヨットは日本の基準ですと最低でも沿海区域を航行できる船であるといえます。しかし、カテゴリーCの船が日本の沿海以上の区域を航行可能であるからといって、その船で遠洋区域つまり外洋も大丈夫とはいきません。そこでISOのカテゴリーA~Dの定義より、日本の航行区域に当てはめるとしたらどのようになるのか、ISOで記述されています各カテゴリーの定義をISO12217-2の8.2 Meaning of the design categoriesより引用し私なりに翻訳させて頂きます。

“A boat given design category A is considered to be designed to operate in winds of Beaufort force 10 or less and the associated wave heights, and to survive in more severe conditions. Such condition may be encountered on extended voyages, for example across oceans, or inshore when unsheltered from the wind and waves for several hundred nautical miles. Winds are assumed to gust to 28m/s.”
訳:デザインカテゴリーAを与えられる船はビューフォート風力10もしくはそれ以下の風とそれに伴う波の中航行でき、それよりもさらに厳しい状況でも耐え抜く事ができるように設計されているものとみなされる。大洋横断などの長期にわたる航海や数百海里以上風や波を遮るものがない沿岸でも、このような状況に遭遇する事があるかもしれません。風速28m/sまでが仮定される状況です。

“A boat given category B is considered to be designed for waves of up to 4m significant height and a wind of Beaufort force 8 or less. Such condition may be encountered on offshore voyages of sufficient length or on coasts where shelter may not be immediately available. Such conditions may also be experienced on inland seas of sufficient size for the wave height to be generated. Winds are assumed to gust to 21m/s.”
訳:デザインカテゴリーBを与えられる船は最大でビューフォート風力8、有効波高4mの波の中航行できるように設計されているものとみなされる。近海においてある程度の期間の航海や近くに避難できる場所が無い沿岸でも、このような状況に遭遇する事があるかもしれません。また、十分な広さのある内海でもこの程度の波の高さを経験する可能性があるでしょう。風速21m/sまでが仮定される状況です。

“A boat given category C is considered to be designed for waves up to 2m significant height and a typical steady wind force of Beaufort force 6 or less. Such condition may be encountered on exposed inland waters, in estuaries, and in coastal waters in moderate weather conditions. Winds are assumed to gust to 17m/s.”
訳:デザインカテゴリーCを与えられる船はビューフォート風力6、有効波高2mの波の中航行できるように設計されているものとみなされる。開けた内海や入り江そしてそれほど悪くない天候状況の沿岸でも、このような状況に遭遇する事があるかもしれません。風速17m/sまでが仮定される状況です。

“A boat given category D is considered to be designed for occasional waves up to 0.5m significant height and a typical steady wind force of Beaufort force 4 or less. Such condition may be encountered on sheltered inland waters, and in coastal waters in fine weather conditions. Winds are assumed to gust to 13m/s.”
訳:デザインカテゴリーDを与えられる船はビューフォート風力4、有効波高2mの波の中航行できるように設計されているものとみなされる。閉じた内海や天候状況の良い沿岸でも、このような状況に遭遇する事があるかもしれません。風速13m/sまでが仮定される状況です。

この定義と要求される復元力消失角から各デザインカテゴリーを日本の航行区域にあてはめますと、カテゴリーAは遠洋、カテゴリーBは近海、カテゴリーCは沿海および沿岸、カテゴリーDは限定沿海、平水区域となるようです。

しかしながら、たとえカテゴリーAの船でありましても状況によって事故が起こってしまう事もあるでしょうし、逆にカテゴリーDの船であっても乗員の知識と経験によって前提とされた航行区域を超えて外洋にでる事も可能でしょう。結局、オーナーの皆様に求められるのは自分の実力と船の特性を理解し、出航するしないの判断も含めよく考え適切に対処していく事ではないでしょうか?

追記:ISO12217-2では、復元力消失角以外にもSTIX(stability index)と呼ばれます計算式群があり、いろいろな観点から評価し総合的に対象ヨットがどれほどの耐航性能を有するのかを判断できます。こちらはまた別の機会に紹介したいと思います。

航祐


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HABER800 テストセーリング in スロベニア [ヨットの話題]

HABERシリーズを手がけるポーランドの造船所Yacht Serviceの代表Janusz Konkol氏より写真が送られてきました。
写真の説明には雑誌取材のためにスロベニアにて行われたHABER800のテストセーリングの模様とありました。









詳しい話を聞いたわけではないので、詳細はわかりませんがSpeed polar diagram(直訳すると速度極図式でしょうか)*1を作成するためにいろいろなリグの組み合わせを試しているのでしょうか。

航祐


*1 Speed polar diagramとは、真の風向と船の進行方向との角度、風の強さによって変わる艇の性能(艇速)を円弧状のグラフで表現したもの。


C A Marchaj 'Sailing Theory and Practice'より
水線長6m、重排水量型のヨットの場合

外側のラインは風速12m(真の風速)の下、各ヘディング角度における艇速の変化を表しています。中心からの距離が大きければ大きいほど艇速が速いことになります。内側のラインは風速12mよりも弱い場合の予測速度です。
この図は重排水量型のヨットの例ですので、ヘディング角度によって艇速の差は大きくありませんが、軽排水量艇やマルチハルではヘディング角度によってその差は歴然です。
このSpeed polar diagramは艇の性能を知るには大変効果的な手段で、そのため海外の雑誌では艇紹介の記事のなかで頻繁に掲載されています。


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半魚船? [ヨットの話題]

本日は、私の個人的なブログのエントリから。

船舶の安全性について下の本を読んでいました。


Seaworthiness: The Forgotten Factor
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http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/1888671092/250-3294415-8290643?SubscriptionId=15JBHWP7TH9QYT1RMHG2

この本の中から『おもしろいな』と思った所を紹介したいと思います。

これは、16世紀の著名な船大工によって描かれたエリザベス朝時代のガリオン船です。

上の方の絵を見てみると、船体下部(水線下)に魚が描かれています。

このデザインは『What is good for fish should be good for ship.』という仮説の元に考案されました。

つまり、その船型は船体前部に最大幅が位置し、そこからなだらかに中心線に収束していきます。

この本によると、鱈(タラ)の頭と鯖の尾部のコンビネーションがイメージだそうです。

たしかにローマの哲学者、Marcus Cicero も

Those things are better which are perfected by Nature than those which are finished by art.

と言っていますが、このデザインの場合致命的な間違いがあったようです。

それは『魚は水の中を進むのに対して、船は水の上をいく。』ということです。

まあ詳しい事は流体力学の話なので省略しますが、つまり適応する自然法則が違うもんなんですね。

しかし、今でこそ色々な現象がモデル化されたり、データの蓄積によってこれが間違った理論であるというのは容易に理解されますが、根拠のない(全くない訳ではありませんが、実証されていない)仮説と経験則が支配的であった時代は、航海から戻ってくるという事が(長期航海を目的とした船の場合)、『その船が優れた船』である事の指標であったのではないでしょうか。

実際、このアイディアは19世紀後半まで支持されていたようです。

いやー、まさに古き良き時代。

航祐


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