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Ocean crossing (外洋横断)ヨット つづき [ヨットの話題]

前回のつづきで、診断項目をいくつかピックアップして、それらの補足および考察をしていきたいと思います。 
ハルについて
1, Midsection(中央断面形状)
midsection.jpg

この設問にはおそらく二つの要素が考慮されているかと思います。
一つは、転覆状態(180°回転し上下が逆さまになった状態)からの正立状態への復元性、もう一つは航海時の波に対する船体のモーション(挙動)です。
ディンギーと異なり、バラストを搭載するヨットでは、風の力によってノックダウン(90°以上傾く)事は、頻度的に高くありません。また、その場合でもほとんどの艇は、90°傾いた場合でも正の復元力を持っていますし、90°傾いた状態ではセールに風を受けませんので、元の状態に戻ってきます。
では、何が問題なのかというと波です。
外洋に出るヨットにとって、波によるノックダウンは想定されなければいけない事項です。
つまり、波によって90°以上、もっといけば復元力が負になる状態までひっくり返されてしまった場合に、元の状態(正立状態)に戻るチャンスが多ければ多いほど生き残るチャンスが大きくなります。
この項目は、それを診断しているわけですね。
幅の広い軽排水量のヨットほど、初期復元力(小さいヒール角度での復元力)は高いですが、逆さまの状態で安定してしまう確率が大きい(逆にいうと、正立状態にもどる少ない)ので、それだけ危険だということで、5点ものペナルティーが科せられているわけです。
波に対する艇の挙動は、艇の乗り心地に大きく関わってきます。ISO 2613 Seasickness and Fatigue(船酔いと疲労)によりますと人体にかかる加速度とその周波数(言い換えると周期)が大きく関わっていると記述されています。
10秒から2秒弱の周期で体が揺れを感じている場合、その揺れが引き起こす加速度が大きければ大きい程、船酔いや疲れを感じ易くなります。
では、3つの船型のうち、どのタイプが波に反応して最も大きい加速度を引き起こすかというと右端のタイプになります。
この艇のような、平べったい形をした軽排水量艇は、(初期復元力の高さのせいで)海水面の形状(波の表面の傾き)に沿う形で艇の姿勢が変化します。つまりそれだけ早く運動の方向が変化することになり、より高い加速度を引き起こします。
しかし実は、艇のスピードを維持するという点においては、この方が優れていると言えるのですが、外洋横断するヨットにとって乗員への疲労の度合いは少ない方が良いという考えに基づいてこのような評価になっていると考えられます。

2, Freeboard(乾舷の高さ)
freeboard.jpg
乾舷が高ければ、それだけ風による影響が大きいですから、天候の厳しい時に艇のコントロールに影響が出ますし、暗礁や陸地など障害物から緊急に風上帆走にて離れなければいけない場合に、その性能に影響を及ぼします。
とは言いましても、乾舷が高い事は悪いことばかりではありません。
乾舷が高いとそれだけ大きな範囲で高い復元力を保つことが多いですし、また船内のヘッドルーム(天井までの高さ)も確保できます。
ただ、ここでは乾舷が高いことによる悪影響の方が重要視されてその分不利になっているようです。

3, Overhangs(船首、船尾の張り出し具合)
Overhangs.jpg
長いオーバーハングには、ヒール時に水線長が長くなりそれだけポテンシャルのスピードは早くなるという利点がありますが、船首が波に叩かれ易くなり、また追い波でのブローチングの危険も増します。ですから、外洋ヨットにはオーバーハングは少ないほうが良いようです。

 
4, Rudder(舵形状)
Rudder.jpg
注:左から順に、アウトラダー、スケグ付き、バランスドラダー
右端のバランスドラダーはもっとも効率の良い形でヘルムの感覚も軽く、レスポンスも早いのですが、艇の状態に影響され易く、急角度操作やヒール時にキールが生成する渦によりストールしやすいといわれています。また、ラダーを保護するキールやスケグが無いですから、ラダー破損の危険性も硬くなります。
逆にキールに連続するタイプのアウトラダーや、スケグ付きのラダーはストールしにくく、基本的に保針性能に優れています。
つまりそれだけヘルムスマンの負担を軽減できるでしょう。
また、この二つのタイプはラダーがキールやスケグに保護されていますので、座礁時や漂流物があたった際にもラダーへの損傷の可能性も低くなります。

5, Keel (キール形状)
Keel.jpg
右端の形状つまりスパン(深さ)が長く、コード(前後幅)が短い、いわゆるアスペクト比が高いものが、流体力学的には、もっとも効率が良い(同じリーウェイ角度において少ない抵抗でより高い揚力を発生させる)のですが、欠点もあります。
例えば、アスペクト比の高いキールでは、十分な揚力を発生させるためには、十分な艇速が必要となります。艇速が足りなければ、キールはストール(水流が渦をつくり揚力を発生しない状態)してしまいます。ストールするとヨットは前に進まずに横流れしてしまいます。
つまりどのような状況でも最低限の操船性能を維持するという点においてロングキールの方が外洋ヨットに向いているという事でしょうか。
それともう一つキールの形状によって大きく左右される要素があります。ロール(船体の中心線を軸とする振幅運動)の減衰性能(振幅がだんだんと小さくなって収束するまでに要する時間)です。
これは感覚的に理解し易いと思いますが、キール面積が大きいほど減衰性能は高くなります。つまりロングキールの方がロールが収まるのが早いという事です。

6, Beam(ビーム)
Beam.jpg

この最大幅に関しては、1で出て来ました倒立状態からの復元の可能性という点で、船体が細い方がその可能性が高いので有利に判定されています。

7, 艇に設置されているスルハルの個数
1~2 (1)
3~5 (2)
5~7 (3)
8~   (4)

スルハルは浸水の危険を増します。少ない方が良いでしょう。

8, スルハルの材質
(1)
プラスティック (3)
真鍮 (4)

これは、強度と電触による影響を考慮していると思われます。
真鍮は亜鉛を含んでいますので、電触によって劣化します。

9, シーコックタイプ
ボールバルブ (1)
ゲートバルブ (3)
シーコック無し (4)

ボールバルブが扱い易さ、バルブ内の栓の構造的に安全と言えるのではないでしょうか。

10, ハル材質
(0)
ファイバーグラス (1)
(1)
アルミニウム (1)
コンクリート (2)
ファイバーグラス(コア材を使用したサンドイッチ構造) (2)

強度と補修のしやすさから、判断していると思われます。しかし、どれもあまり大差のない点数となっていますね。

15, 操舵形式
ティラー (1)
ラット (2)

これは、構造の複雑さに関係しているかと思われます。ラットの場合、チェーンや油圧装置等を経由してラダーを動かしますので、それだけトラブルの可能性を秘めているということでしょうか。

23, コーチルーフ前端のエッジの形状
直立の立ち上がりがある (1)
傾斜状になっている (3)

この設問は、私も少し理解しきれていないかもしれません。
原文では
What shape is the forward edge of the cabin trunk? 
Squared off (1)
Sloping (3)
となっています。
私の予想では、直立の立ち上がりがある方が、波がデッキを洗った場合、海水がコクピットまで届く可能性が少ないので有利に診断されているのかなと思いました。
何か良い説明が思い当たる方は是非教えて下さい。

25, ハッチおよびスカイライトハッチについて
小さくて少数 (1)
小さいが多数 (2)
大きくが少数 (4)
大きくて多数 (5)

キャビン浸水の可能性は低い方が良いでしょうね。

28, 自動操縦装置
ウィンドベーン (1)
デッキ下設置式オートパイロット (1)
コクピット設置型オートパイロット (3)
無し (5)

省電力および故障の少なさから言えば、ウィンドベーンに勝るものはないということでしょうか。
オートパイロットの種類によって2点もの差がついているのは、ちょっと納得出来ないですが。

29, コーチルーフに設置されているポートホールの形状
Coachreef.jpg

これも、窓が破損した場合の補修のし易さおよび浸水の可能性を考慮したものでしょう。

30, コーチルーフの形状
IMG.jpg
左と真ん中の違いは、前出の設問23の違いだけに思えるのですが。。。

31, スプレーフッドまたはドジャー
無し (1)
折り畳み式 (1)
固定型 (2)

固定式のものは、悪天候時の風による影響を考慮してこのようになっているのでしょうか。

コクピットについて
32, コクピットサイズ
cockpit.jpg

コクピットは、排水口がどのように設置されていたとしても、やはり排水には時間がかかります。その意味でコクピットは小さい方がいいと言う事でしょうか。

35, コクピットに水が溜まっても、船内に浸水しないよう構造になっているか?
はい (1)
いいえ (5)

この設問は、コンパニオンウェイの入り口の敷居にある程度の高さが必要だと言っています。

リギンについて
37, スタンディングリギン(マスト固定用リギン:サイドステイやフォアステイなど)のワイヤー構造
1 x 19ワイヤー (1)
7 x 7ワイヤー (1)
ロッド (3)

リギンが破損する場合、ロッドでは破損の前兆が見えない事がほとんどですが、1x19ワイヤーでは編み込まれているワイヤーすべてが一気に破損する事はほどんとありませんので、前兆をとらえるチャンスが大きくなります。

39, リギンターミナル形式
ノースマン式ターミナル (1)
ワイヤースプライス (1)
ローラー式スエッジ (2)
タルリットもしくはニコプレス式スリーブ (3)

一般に使用されているのは、ローラー式スエッジがほとんどですが、ノースマン式の方が強度は強いそうです。

40, ターンバックルの両端にトグルが付いているものをリギンの両端に使用しているか?
はい (1)
いいえ (2)
sailboat-toggle.jpg

すみません。ちょっと理由がわかりません。

42, ターンバックルの形状
オープン形式(上から下までスリットが入っていて開いているもの) (1)
シリンダー式(中央にだけ小さな穴が開いているもの) (2)

オープン式の方がスレッド(ネジ部分)の状態が分り易いのと、調整がし易いからでしょうか。

43, パーマネントバックステイ
有り (1)
無し (3)

ショートハンドではランニングバックステイの操作は結構な手間ですね。

50, 海面から船上に上がる為のはしごの有無
有り (1)
無し (2)

ヨーロッパで市販されているヨットでは、カテゴリーC以上では海面から手が届くような梯子の設置が必須となっています。
Adriftという映画(邦題オープンウォーター2)がありまして、ヨットから飛び込んで水遊びをしてヨットに戻ろうとしたら梯子に手が届かなくて大事故になるというストーリーです。想像するだけでも怖いですね。

51, アビームより上りの角度をセーリングしている時のヘルム
微かなウェーザーヘルム (1)
ニュートラルヘルム (2)
強いウェザーヘルム (4)
リーヘルム (5)

一番上のものが癖の良いヨットですね。

53, チャートテーブルについて
固定された専用テーブル (1)
折りたたみ式 (2)
他の用途と共用 (2)
無し (4)

GPSが手軽にまたより使い易くなった現在でも良く言われる事とは思いますが、一つの情報に頼るのは危険です。
その意味で、海図を使っての航海は必須です。

55, 船体の端から離れた位置に2つ以上バースがありそれらは;
1.93m以上のものである (1)
1.83m以上のものである (4)
無しもしくは上記以下の長さ (10)

外洋と言えどもワッチの必要は尽きません。その為には快適な睡眠を取れる事が大事になります。
船体のモーションの中心近くである船体の中央に比べ、船体の端では、その量は格段に違います。

個人の経験について
56, 自信のセーリング経験を以下からひとつ選ぶ
船長として外洋をわたった経験がある (1)
クルーとして外洋をわたった経験がある (4)
船長として沿岸クルーズの経験がある (6)
豊富なディンギー操船経験がある (7)
クルーとして沿岸クルーズの経験がある (8)
少しもしくは無し (10)

やはり、外洋経験があるのと無いのではかなりの違いが有るようですね。

色々と見てきましたが、ヨットの購入をお考えの皆様全員が外洋横断を目的としている訳ではありません。
それぞれの特徴を理解した上で、ご自分のセーリングライフに合ったヨットに出会えますように願っております。

航祐

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