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5.5m級(Five-five class)@ハンブルグボートショー [ちょっと気になるヨット紹介]

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ハンブルグボートショーで展示されていたこのヨット達、国際5.5m級。

細身の船体にアスペクト比の高いセール、まさしくキールボートという感じですね。

ボートショーで見かけてちょっと気になったので、帰ってきてから少しリサーチしてみました。

このクラスは国際6mクラスと同じようなレース用キールボートを廉価で体験できるようにと、デザイナーCharles E. Nicholsonによって1937年に設計されました。そして、1952年にはオリンピッククラスに採用され、徐々にその登録艇を増やしていきました。

残念ながら、その後の開発合戦による建造コスト増により、1968年にはオリンピック種目より除外されてしまいましたが、現在では、全世界29カ国で100名を超えるデザイナーたちによって設計された641艇が登録されています。 

ボートショーでは、3艇の建造年の違う5.5m級が展示されていまして、それぞれハルの形状や艤装品に違いがありました。

 

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こちらが一番古いタイプ。クラス内の分類でクラッシクに分類される艇。ラダーはロングキール後縁に接続する形で付いています。クラスルールによりますと1970年以前に建造された(計測登録証明書の発行を受けた)艇がこのクラッシクに分類される資格があるとのことでした。

また、1970年以前の艇であってもキールや艤装品に変更を加えた艇は、クラッシク艇の資格を失ってしまいます。だたし、セールの素材に限ってはケブラーやその他の最新の素材が認められているようです。

 

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こちらがエボルーションに分類される艇。1970~1990年に建造された艇がこのカテゴリに分類されます。特徴としましては、キールと分離したラダー。またキール自体はCord(前後幅)がクラッシクと比べて大きく減少していることと、そのSwept back angle(後退角)が大きいこと、そしてカヌーボディ(キールを除いたハル)の深さが若干減少したことでしょうか。

このエボリューションに分類される艇は、オリジナルの設計から現在のクラスルールの範囲内である程度のModification(改造)が認められていて、1:マスト素材の変更、2:キールに関しての改造(形状およびバラスト素材の変更等)、3:ウィングレット*1キールの採用、4:ラダーの改造のうち2項目まで実施することができます。

*1ウィングレット:翼の先端に翼面と垂直に取り付けられた羽。小型から中型の旅客機の主翼にもよく見受けられる。ヨットでは、キールの先端に水平に取り付けられる。通常のキールの場合、帆走中、キールの風上側と風下側の圧力の違いによって、高圧側(風下側)から低圧側(風上側)に水が移動することによってキール先端から尾を引くように渦が生じ、Induced drag(誘導抗力)を引き起こす。ウィングレットを取り付けることによって、高圧側から低圧側への水の移動を阻止し誘導抗力を減らす役割をする。ウィングレットの一例(下写真)

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1990年以降に建造された艇はModern(モダン)に分類されます。展示艇の一艇はこの型だったのですが、きっちり写っている写真がありませんでしたので、この写真はクラス協会のサイトから。セールナンバーはSUI206。

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モダンに分類される艇は、現行のクラスルールに定められた範囲で自由な設計が認められています。スパー類にはカーボンを使えますし、キールへのTrim tab(トリムタブ)*2やウィングレットの採用も認められています。

*2トリムタブ:飛行機にたとえると翼後縁のフラップのようなもの。翼面への流体の進入角を変えずに揚力を発生させる。ヨットがセールから受けた横方向の力を打ち消すには、キールが生み出す揚力が不可欠です。通常のキールの場合、ある程度のLeeway(リーウェイ:進行方向に対して風下方向への横流れ)がキールに対して水の進入角を生み出し、初めて揚力が発生する。このトリムタブをうまく使うと、リーウェイなしでの帆走が可能である。下の写真はトリムタブの一例。

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下写真:ハルの発展の歴史。(クリックで拡大します。)これを見るとハル形状の発展の様子がよく解ります。

 hull_evolution.jpg

 

ここで少しクラスルールに話題を移したいと思います。このクラスが5.5mメーター級と呼ばれる所以は、全長が5.5mという訳ではなく、クラスルールにより規定される計測値から導き出した計算式が5.5m未満であると定められたところに有ります。

計算式は

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Lは、船体長。詳しくは複雑なので述べませんが、水船長より若干長い一般にSailing length(帆走時の水船長)とよばれる長さ。

SはSail area(セール面積)。26.5~29平方メートルの間に限る

DはDisplacement(排水量:船体重量/平均海水密度1025kg)1.7~2.0㌧の間に限定される。

仮に、セール面積は最大26.5平方メール、排水量は規定最小の2.0トンとして、理論上のL最大値を求めてみると 8.18mとなります。 

同様に、セール面積は最大29平方メール、排水量は規定最小の1.7トンとして、理論上のL最小値を求めてみると 7.61mとなり、その差は7.5%になります。プレーニング時を除く艇の基本的な速度性能はセーリングレングスLの平方根に比例しますので、この二艇の性能差は約3.7%となり、決して無視できない差となります。

理想的には船体長は長く、セール面積は大きく、排水量は少なくしたいところですが、計算式はこの3つの変数によってコントロールされ、前述の計算が示すようにひとつの変数を優遇すればその他のところで妥協しなければならず、その中で最適なハル形状を設計していくことになります。

クラスルールによるとこの他にも、最小全幅(1.9m)や、キールを含めた最大深さが1.350m、平均のFree board(乾弦)の高さが0.628m以上でなければならない等の規定があります。

しかし、これらの規定を満たす限りはハルの形状に対しある程度の自由度が有ります。その自由度が多くのデザイナーたちがこのクラスの設計にチャレンジしてきた一因でしょう。

また、それによってちょっとした変り種のデザインも発案されてきました。

下の写真は、クラス協会のサイトにあったシュモクザメからヒントを得たとらしいキールデザイン。

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キール後縁

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キール前縁

おそらく、数々のリサーチ、シミュレーションの結果なのでしょうが、どういう効果があるのか一通り調べてみたのですが、文献が見つかりませんでした。どなたかご存知の方がおられましたら、是非ご教授下さい。

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当該艇の全体像。写真の解像度が良くないのでわかりにくいですが、船首の形状がWave piercing bow*3のように見えます。

*3Wave piercing bow:波を超えていくのではなく、波を切り裂き、ときには船首部分が水面下に沈むことで、前進方向の慣性の減少を狙った船首形状。最近では、マルチハル艇に良く見られる。話題の環境保護団体(巷では環境テロリスト団体と揶揄されることもある)シーシャパードが最近購入した高速トライマランEarth boatもこの形状の船首を採用している。

クラス協会サイトには、写真のみで詳細がわかりませんでしたがもう少し調べてみてみたいと思います。

 

私個人の意見としまして、純粋にセーリングの楽しみを与えてくれるキールボートと呼ばれるタイプのヨットは、もっとポピュラーであっても良いと思っています。日本ではJ24が割と盛んですが、それ以外となるとドラゴンやプラトーくらいでしょうか。

また、私好みのキールボート、デーセーラーがありましたら、どんどん紹介していきたいと思います。

 

航祐


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