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ガフカッターとスループ [ヨットの話題]

先日、本桟橋を歩いていました時に、

こちら↑、Cornish Crabber 24' Gaffのバウスプリットが

同じ艇種のCornish Crabber 24' Bermuda↑の物より明らかに長い事に気づきました。

そこで、事務所に戻ってきて両艇のプラン図を見てみました。

Gaffリグはバウスプリットが長いだけでなく、メインセールのクリュー(後端)も少し後ろよりです。

Cornish Crabber 24' Gaffはイギリスの伝統的な蟹とり漁船のラインがモデルになっており、リグなども当時の物を再現する形でデザインされています。

確かに古い時代のガフリグの船をみてみますと、バウスプリットにカッターリグ、ケッチやヨールもしくはスクーナー、一本マストでもブームはトランサムより後方に飛び出していて、船の前後方向にセール面積を広げていったようです。
当時の状況を考えますと、材料的な制約で一本物で十分な強度をもつ長いマストを作るのは難しかったというのもあるでしょうが、ガフカッターなどのリグは作業船や輸送船に多くみられたというのは、他にも理由があるように思い、少し考察してみました。

対象的に現代のヨットはアスペクト比の高いリグつまり高いマストで上下に長いセールを使用しています。この方が効率、つまり発生する揚力に対して抵抗が少ない事が判明しているからです。


引用1"Sailing Theory and Prctice" C A Marchajより
注:図中のセールはセール面積はすべて同じでアスペクト比が異なる

このグラフは縦軸にセールが風に対して垂直方向に発生する力(揚力)、横軸に風が向かう方向に平行に発生する力(抵抗)を表し、グラフ左下のαはセールからみた風の進入角(ブームと見かけの風との間の角度)です。風の進入方向は図にあるように横軸の左から縦軸に対して垂直になっています。
セールの揚力と抵抗は合成され、再び船を前進させる力(ドライビングフォース)と船をヒールさせる力(ヒーリングフォース)に分解できます。船の進行方向は図のようにクローズホールドです。この場合、ドライビングフォースは船の進行方向と平行でその方向にのびる矢印で示されており、ヒーリングフォースは船の進行方向に対して垂直にのびる矢印で表されています。
この図から分かりますように、クローズホールドでは圧倒的にアスペクト比の高いセールが有利ですね。ガフリグと比べると約2.5倍にもなります。

ただ、このアスペクト比の高いセールがすべての状況において有利という訳ではなく、見かけの風に対してのヘディング角によっては、ガフリグのようなアスペクト比の小さなセールの方がドライビングフォース(前に進む力)が大きい場合もあります。下の図にそれが示されています。


引用2"Sailing Theory and Prctice" C A Marchajより
縦軸はドライビングフォース、横軸は見かけの風に対してのヘディング角

図から見て取れますように、ガフリグ(アスペクト比AR=1)見かけの風が70度以上ではAR=6のセールよりもドライビングフォースが大きくなっています。
整理しますとアスペクト比の高いセールはクローズホールドなど見かけの風と進行方向の角度が小さい時は有利で、逆にその角度が大きい時はガフなどのアスペクト比の低いセールがより多くのドライビングフォースを生み出すという事でした。

先ほどからたびたび登場します『見かけの風』について、少し補足させて下さい。
見かけの風というのは文字通り、航行中の船上で観測される風の方向や速度であったりしますが、それらは実際の風と船の艇速を合成したものです。
という事は、艇速が上がりますと見かけの風は強くなりまた方向も船首側にまわったように観測されます。つまり同じのぼり角度で帆走していても、速い船は遅い船より強くまた前に回ったみかけの風の中を帆走しなければなりません。

ここでもう一度、今日の話題、ガフカッターはより長いバウスプリットで前後にセール面積をとり、スループは高いマストで上下にセール面積をとっているという話題に戻ります。

昔の作業船などはガフカッターリグの船が多くみられるという話でしたが、こういった船はもちろん重排水量でしょうから最高速度も限られたでしょうし、今のレーサーみたいにがんがん上る事は皆無で、実際アビームやリーチングがほとんどだったでしょう。という事は、それらの船に求められたのは、安全性といかに多くの荷物を積んで帆走できるかであったのではないでしょうか?つまり、必要なのは大きいドライビングフォースと少ないヒールモーメントという事になります。


引用3"Sailing Theory and Prctice" C A Marchajより
(β-λ)は見かけの風に対してのヘディング角
縦軸はドライビングフォース(左にいくほど大きい事に注意)
横軸はヒールモーメント

(β-λ)=27.5度よりも大きい場合で、セールが前後に長いリグModel Cの方がドライビングフォースも大きくそしてヒールモーメントも小さい事が分かります。つまり作業船に求められる条件に合致しています。
昔の人はこの事を知っていたのかどうか分かりませんが、実証的に認知されていたからこそこのタイプの船が多くみられたのではないでしょうか?

Cornish Crabberに興味を持って頂ける方でも、だいたいの方がのぼり角度について言及され気にかけられますが、風上に向かって帆走するレグが重要なレースに定期的に出られる方以外は特に気にする必要もないと思います。私の場合どうせ帆走するなら気持ちいい角度で楽にセーリングを楽しみたいですね。

航祐


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2007年9月27日 木曜日秋の特別企画 ブログトップ

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